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津波で流された実家を再建するまでを描いた実録コミック『ナガサレール・イエタテール』

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「あたりまえ」とか「普通」とかって、
本当にむずかしいよな〜と近頃しみじみ思う橘です。
 
わたしは昔から「普通わかるでしょ、そんなこと!」とか
「なんでそんなことするの、変だよ」みたいに
怒られたりすることがほんっとーーーに多いので、
多少の心構えができているというか、まあ、慣れたんですが、
それでも時々、「おまえの普通を押し付けられても知らんがな!」と
理不尽に思うことはあります。言わないけど。
 
それでも生きている限り、人が集まる限り、
わたしたちは「普通」をすりあわせて、守り続けていくしかありません。
血を分けた家族であってもズレることが多いから、とても大変なのだけど、
でもだからこそ尊いことなんだなあ、というのをこの本から教えてもらった気がします。
『ナガサレール・イエタテール』(ニコ・ニコルソン)。
3.11で流されたご実家を再建する実録コミックエッセイですが、
3.11に関する本で、「あたりまえの日常なんだな」と泣き笑いしながら読めた
ノンフィクションは初めてでした。
 

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著者のニコさんの故郷は宮城。
ご実家は、お母さま(母ル)とおばあさま(婆ル)もろとも
津波に飲み込まれ、流されてしまいます。
お二人とも、二階に逃げ込んだおかげで奇跡的に助かりはしますが、
津波のショックで婆ルは、母ルの顔も忘れる一時的せん妄状態に。
認知症も進み、家に帰りたいと駄々をこねる。
肚をくくった母ルは「家を建てよう」と決めるのです。
幸いにも保険は降りる。
けれども家は土砂まみれで、客間には誰かの車のバンパー。
ご近所さんだってたくさんいなくなってしまった。
原発はどうなるかわからない。
ニコさんだって東京で仕事がある。
さらに追い打ちをかけるように、母ルには癌発覚。
 
何度となく挫けそうになったニコさん。
ですが「もうずっとこっち(川崎)にいればいいじゃない」
と言った娘(ニコさんのおば)に、婆ルが返した言葉は
「お母さんは生まれ育った場所に帰ります」だったのでした。
 
 
震災後、一度だけボランティアに参加したことがあります。
何もかもが流されて、危険区域とみなされ、
もう家を建ててはいけないと指定された場所を指さし、
現地の方は「それでもあそこに戻りたいって思っちゃうんだよね、なぜか」
と言っていました。
婆ルは、津波の恐怖を忘れてしまったけれど、
でも、根っこの感情は同じなんじゃないでしょうか。
 
ただ、当たり前の日常に戻りたい。
他でもない、自分にとっての「普通」をとりもどしたい。
その「普通」は、誰のどんな理屈をもってしても、
打ち壊せるものじゃないんだと思います。
 
 
「どんどん不幸な人扱いされてる気分になってきてさ〜」
「毎日毎日 ただ生きてるだけなんだけどなぁ」
という母ルの言葉。
 
震災の翌朝、
「生存確認もできない中 眠れてしまった自分にビックリ」
と目覚めたニコさん。
 
どんなことがあっても最終的には眠くなるし、
無事がわかれば泣くほどうれしい。
聞く耳をもたない婆ルには腹はたつし、
冗談を言って笑いあうこともある。
そんな日常を、ニコさんとご家族が家を建てることを通じて
とりもどしていくさまが、本当に「普通」に描かれていて、
しかもどんなときでも笑いをとりにいこうとする姿勢も健在で、
笑うたびに泣きそうになってしまう、そんなマンガでした。
 
と、ここまで私がぐだぐだ書いたことを
羽海野チカ先生が一コマで付録ペーパーで1コマで描かれていて、
わたしなんぞの文章を読むよりまずはお手にとって
本書を読んでくださいとしか言いようがありません……。
 
 
実はわたし、著者のニコさんと知り合いで、
この本を読んだ当時はちょうどお仕事をご一緒していたため、
ついつい勢いあまって電話をしてしまいました。
「なんか、うまくいえないけど、“そういうこと”なんだなって思いました!」
とお伝えしたところ、
「そういうことなんですよ、きっと」って言ってくださって。
 
みんなにとっての“そういうこと”を、
守り続けていける世の中であってほしいなあ、と切に思う次第です。
不謹慎だなんだって、他人を責め続けていないでさ。
 
 
東北も、九州も、被災された方々の毎日が、
少しずつでも「普通」に戻っていかれることを心より願っております。
 
 

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美伝子Labライター

フリーライター作家橘 もも
講談社X文庫ティーンズハート大賞<佳作>受賞して作家デビュー。

大学卒業後、ダ・ヴィンチ編集部にて雑誌&書籍の編集者として勤務しつつ、作家業を続ける。現在は、フリーでライター・編集業(立花もも)、作家業(橘もも)の二足のわらじ。小説のほかにも、映画やゲームのノベライズ、絵本やノベライズの翻訳などを手掛ける

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